統合保育からインクルーシブ保育へ|三好桃山幼稚園が歩んできた実践の軌跡と日常の工夫

1972年に「統合保育」を掲げてから半世紀。2000年代を経て「インクルーシブ保育」へと進化した背景があります。さらに、具体的な関わり方や環境構成、指導計画への落とし込みまで、当園の実践を交えて紹介します。

目次

1972年から続く歩みと、保育の進化

三好桃山幼稚園には開園当初から、さまざまな育ちや個性をもつ子どもたちが自然と集まっていました。1972年には、生活を共にすることの意義を掲げました。そして、園の方針として「統合保育」を明確に打ち出しました。

それから年月を経て、2000年代に入り、教育と保育のあり方をさらに見直しました。

かつての統合保育では、関わりの中で「支える側」と「支えられる側」という固定的な関係が残りやすい側面がありました。しかし、当園がめざすインクルーシブ教育・保育ではその枠を取り払っています。一人ひとりが自分らしく自己主張し、互いの違いから刺激を受け合う環境をめざしています。

なぜ2000年代に「統合」から「インクルーシブ」へ変化したのか

この転換は、当園の現場の気づきだけでなく、国内外の制度や理念の変化と軌を一にしています。

1. 「同化」から「環境の調整」への転換

従来の統合(インテグレーション)は、既存の集団の枠組みに子どもを合わせる、いわば「同化」のアプローチが中心でした。

一方のインクルージョンは、困りごとの原因を個人の心身機能だけに求めるのではなく、周囲の環境や制度の障壁にあると捉えます。また、多様な子どもがいる状態を前提とします。そして、集団や環境の側を柔軟に組み替える発想へと変わりました。

2. 国際的な枠組みと国内の法制度改革

  • 1994年 サラマンカ宣言(ユネスコ):特別なニーズを持つ子どもを通常教育の場に包摂する方針が国際的に提起されました。
  • 2006年 障害者権利条約(国連総会):障害のある人とない人が共に学ぶ「インクルーシブ教育システム」の整備が明文化されました。
  • 2007年 学校教育法改正(日本):従来の「特殊教育」から、通常の学級や幼稚園も含めて支援を行う「特別支援教育」へ制度が移行しました。

3. 現場における「固定的な関係性」への見直し

長年統合保育を続ける中で、「一緒に過ごす」ことは実現できても、障害のない子が「世話をする側」、配慮を要する子が「世話をされる側」に固定されやすい課題が見えてきました。

誰もが助けを求める主体であり、同時に誰かを支える存在でもあります。また、役割を固定せず、対等に響き合う関係性を育むため、インクルーシブ保育への転換を図りました。

統合保育とインクルーシブ保育の違い

実践面における主な違いは、以下の点に表れます。

視点従来の統合保育インクルーシブ保育
保育者の役割対象児に付き添い、一斉活動についていけるよう手助けするクラス全体を見守り、状況に応じて必要なタイミングで手助けに入る
子ども同士への促し「手伝ってあげてね」と保護的な関わりを促しやすい「どうすれば一緒に遊べるかな」と対等な交渉や対話を促す
活動への参加方法全員が同じ時間・空間で、同じ製作や運動を行う道具や工程の選択肢を用意し、子ども自身が参加方法を選べるようにする
空間の設計落ち着かないときは別室へ連れ出してクールダウンさせる保育室内に衝立やテントを置き、同じ部屋の中に静かな逃げ場を設ける
情報の伝え方対象児のみに個別スケジュールを見せる室内に写真や絵の案内を常設し、どの子も一日の流れを把握できるようにする

園生活における具体的な工夫

日常の何気ない場面でも、全員が自分のペースで参加できる仕掛けを取り入れています。

朝の会(サークルタイム)

  • 座り方を選べるようにする:丸く並べた椅子のほか、床マットやビーズクッションを用意します。さらに、輪の少し後ろで見守る参加スタイルも認めています。
  • 表現方法を広げる:名前を呼ばれたときの返事は、声だけでなく、手を挙げる、タンバリンを叩く、ハイタッチをするなど、本人が選びやすい方法を受け止めます。
  • 一日の流れを見える化する:活動の順序を写真カードで掲示し、終わったものから子ども自身で箱へ片付けます。また、見通しを持つことで、不安をやわらげます。

製作活動

  • 道具と素材の選択制:ハサミで切る、手でちぎる、スタンプを押す、シールを貼るなど、同じテーマでも複数の工程を用意します。手指の動かしやすさに応じて、自分で作業を選びます。
  • 支援具の共有:握るだけで切れるスプリング付きハサミや太軸クレヨンを、特別な道具として隠さず、全員の共有トレイに置きます。そのため、誰でも自由に使える環境を整えています。
  • 途中で休める余白:集中が途切れたときは、無理に続けさせず、小さな区切りで終了とします。絵本コーナーなどで休息を取り、気持ちが戻ったら再開できるようにしています。

室内環境と片付け

  • 活動ごとの空間分け:棚や衝立を使い、ダイナミックに遊ぶエリアと、落ち着いて過ごす静かなエリアを明確に区切ります。
  • 写真ラベルの活用:おもちゃ箱の表面に収納する物の写真を貼ります。これにより、言葉の指示に頼らなくても直感的に戻せる仕組みにしています。

計画づくりへの落とし込み

理念を日々の保育に根づかせるため、指導計画や個別支援計画の書き方にも工夫を重ねています。

  • 月案・日案:「みんなで同じことをする」という目標から、「複数の選択肢の中から自分のやり方を見つける」という目標設定に変えています。また、代替案を後から足すのではなく、最初から複線化した計画を立てます。
  • 個別支援計画:「できないことを補う訓練」ではなく、「どんな環境があれば力を発揮できるか」を記述します。視覚的な手がかりの配置や、得意な遊びを通して他児と対等に関われる場面の設定などを具体的に明記します。

これからの園生活に向けて

子どもたちは一人ひとり、得意なことも苦手なことも異なります。

誰かの苦手な部分は別の誰かの得意なことで補い、お互いの自己主張を受け止め合いながら、日々の中で小さな社会を体験しています。

これからも枠にはめる保育ではなく、子どもたち一人ひとりが自分らしくいられる環境づくりを続けていきます。

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